34 太極の星 ②

会報『陳家溝』第二号 発行日1995年3月15日

彼は微笑しながら、落ち着いた歩調で登場した。その少し浮き上がっている唇から、正直、純朴、毅然(きぜん)とした気質がうかがえる。1982年の秋、10月、河南省北部にある新郷市で、河南省太極拳推手試合大会が開かれた。その閉会式で陳小旺は何千人もの観衆から求められ、実演に登場した。

彼はまず観衆に向かってお辞儀をし、それから深く息を吸い、両手をゆっくりと上げ起勢した。つづいて金剛搗碓、攬扎衣、単鞭、白鶴亮翅…、一連の動きは行雲流水の如く柔軟であり、強く、円滑である。突然彼はパッと身を翻(ひるがえ)すと、その様はまるで獅子がふるい起きたように見え、剛健勇猛である。観衆の気分は一瞬の間高まり、喝采の声や拍手、カメラのシャッターの音などが会場に響き渡った。

小旺は太極拳一路を終えてから、観衆に深々と礼をして退場しようとしたが、嵐のような拍手に引き止められた。小旺は元気にもう一度戻って、太極拳二路を実演し始めた。二路は発勁が強く、速度が速い。一路とは違う。連珠炮、白蛇吐信、海底翻花…など、飛び、跳ねる、飛び移り、身をかがめ、そして翻るなどの技をやると、身のまわりに度々風を起こす。終った途端、再び嵐のような拍手がおき、観衆は彼を退場させない。小旺は仕方なく陳世通を呼び寄せ、二人で定歩、乱採花などの推手を実演した。今度は退場できるだろうと思ったが、再び「アンコール、アンコール」の歓声が鳴り止まず、どうしようもない。観客席を見ると人々でぎっしり詰まっており、興奮した人々の目からは信頼、期待、激励の気持ちがはっきりうかがえる。彼はこの雰囲気にすっかり感動した。

少し考えた後、拡声器に向かうと、皆さん、次に「技解き」をやってみるので誰か一人こちらに来てもらえないかと言った。すると、5人の逞(たくま)しそうな若者が出てきた。小旺は彼らと一人一人握手をしてから、その中から二人の警官を選んで実演の相手とした。彼は馬歩を作ってから二入に指示を与えた。二人は言われた通りに彼の両腕の腕関節と肘関節を捉え、背中の方にねじり上げた。二人とも精一杯やっている。彼は用意できたかと確認すると両肩を軽く一振りした。すると両手はきれいに技から解かれ、同時に二人は前へ三、四歩の地面に倒れてしまった。技解きは見事に成功し、全会場が沸き返った。人々はさすが太極拳神功だと、しきりに称賛した。

Ⅱへつづく