19 伝統太極拳と表演競技太極拳の違い

20数年前、私が太極拳表演競技に選手として出場していた頃の経験を述べよう。

選手は自分の出場時間の1時間ぐらい前にサブアリーナでウオーミングアップを行うのが常であった。

私は当時その場で驚きを感じた。会場では殆どの選手が体操選手の様に柔軟体操に時間を費やしていた。ある人は開脚を、ある人はバーに脚を乗せてのストレッチ等々。ストレッチを行う事は準備運動として当然である。しかし、私が驚いたのはウオーミングアップの大半がストレッチ体操なのである。

そこで、基本功(纏絲法、貫気法等)や站樁を行なっている人はいなかった。

私が表演を行う前は、柔軟体操、ストレッチもするが、先ず站樁で気を静め、基本功で運気する。

日本の表演競技志向団体(日本武術太極拳連盟)は中国武術と太極拳表演競技ジュニア育成と言って、子供の太極拳表演競技選手育成に力を入れていると聞く。(オリンピック参加を将来の展望にしている。中国武術がオリンピック競技に認定されるかは未定)

しかしその実態は、他の中国武術(長拳、南拳等)を学んでいる子供の中から太極拳に向きそうな子を選抜して太極拳の套路を学ばせ選手として育成するのである。全員とは言わないが。

準備運動、ストレッチ、長拳等の基本動作を他の武術選手と同じに行う。そこには、気や内勁の概念の指導は皆無である。

これは、中国の表演競技選手育成方法をそのまま取り入れた結果であろう。であるから、そのコーチ達を責められない。彼らもその様にして育ったのである。

陳家溝の子供達との大きな違いがここに有る。

陳家溝の子供達は幼い頃から太極拳を学ぶ。そして気の概念を自然に学び、纏絲勁や様々な太極拳理論を学ぶ。

この様に、伝統太極拳と表演競技志向の太極拳とは出発点も違えば、練習方法や考え方も異なる。両者の太極拳は似て非なる者である。

重道